山口県の両生類・は虫類の概要

【特徴】

 両生類の繁殖様式は殻のない卵生である。体表は湿った粘膜で覆われ、皮膚呼吸と合わせて肺呼吸も行う(水中で過ごす幼体は、えら呼吸を行う)。繁殖様式や呼吸方法を水に依存しなければならないため、成体になっても水辺で生活をしている。一方、は虫類の繁殖様式は殻のある卵生である。体表は乾燥に強いうろこで覆われ、肺呼吸である。そのため、水辺から離れた場所でも生活することができる。また、両生類・は虫類とも体温調節機能が発達していない変温動物である。そのため、冬季は冬眠する。

【前回調査(2002)の結果】

[両生類]

絶滅危惧ⅠA類(CR)

オオサンショウウオ

準絶滅危惧(NT)

カスミサンショウウオ、ニホンヒキガエル、トノサマガエル、カジカガエル、モリアオガエル

情報不足(DD)

ブチサンショウウオ、ハコネサンショウウオ

[は虫類]

準絶滅危惧(NT)

ニホンイシガメ、タワヤモリ、タカチホヘビ、シロマダラ

【山口県の生息環境】

 山口県は本州最西端に位置し、東西に連なる中国山地の西外れ(西中国山地)の山岳を有する。最高峰は1,300m余りと低く、なだらかな低山が多い。それらの山岳を水源とする河川が多数あるが、日本の他地域と比べると川幅は狭い。海に面した広い平野は少なく、内地には山に囲まれた谷底平野が多数ある。気候は日本海側、瀬戸内海側、内陸側で多少異なるものの、概して温暖で降水量はやや少ない。農業は稲作が中心であるが、休耕田が年々増えつつある。圃場整備が施された地域も多い。また、水田に水を引くための溜池が多数(9,995個、全国第5位 農林水産省農村振興局、平成26年3月のデータによる)造られている。

【調査方法】

 前回調査では文献による生息状況調査に合わせて、県内全域にわたり、目視や捕獲・聞き取りによる実地調査を行った。今回は2009年に県内での生息が確認されたナガレタゴガエルを加えた全35種(外来種:ウシガエル、クサガメ、ミシシッピアカミミガメ、ニホンヤモリを含む)を対象とし、前回と同様、目視や捕獲・聞き取りによる全県的な調査を実施した。その結果を前回調査の結果と比較し、各種類毎にカテゴリーの定義に基づき、ランク付けを行った。

【今回調査(2019)の結果 ~リスト選定の主な理由~】

[両生類]

 新たに3種(ヒダサンショウウオ、アカハライモリ、ナガレタゴガエル)を加え、計11種をリストに選定した。

 有尾目について、オオサンショウウオは、子孫が残せない個体群が増加し若齢個体も減少している。また、近年多発する洪水による流下個体も確認されている。生息地も錦川支流や島田川支流の限られた清流のみである。このため、前回同様の絶滅危惧ⅠA類(CR)にランクされた。カスミサンショウウオは、最近の研究で典型的なタイプと異なる阿武型が確認され、山口市と萩市・島根県津和野町にのみ、少数生息している。また、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショオウオについては、個体数は少なく局所的にしか確認できず、本県の西中国山地が分布の西限になっている。これらのことから、この3種は絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクを上げた。ブチサンショウウオは、県内各地に記録があり、今回の調査では山間部だけでなく沿岸部で幼体が確認されたことから、情報不足(DD)から準絶滅危惧種(NT)にランクした。アカハライモリは、瀬戸内海側の平野部での減少が著しいことなどから、新たに準絶滅危惧種(NT)にランクした。

 無尾目について、ニホンヒキガエルは、瀬戸内海側ではほぼ確認できず、卵塊数の多い繁殖地もごくわずかになったことから、絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクを上げた。ナガレタゴガエルは、繁殖のため成体が渓流の水中に集まる時季に調査を試みるものの、確認される地域は局所的でごくわずかであった。また、本種の生息する本県の西中国山地が分布の西限になることも推測され、絶滅危惧ⅠA類(CR)にランクした。トノサマガエル、モリアオガエル、カジカガエルの3種についても、前回調査に比べ生息環境の悪化や多少の生息状況の変化が見られたが、極端な差異が見られなかったため、前回同様の準絶滅危惧種(NT)にランクした。

[は虫類]

 新たに1種(ニホンスッポン)を加え、計5種をリストに選定した。

 カメ目について、ニホンイシガメは、前回調査に比べ確認される個体が極端に少なかった。また聞き取り調査でも同様の傾向が確認できた。このため、絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクを上げた。ニホンスッポンは、定点において決まった個体が日光浴をする様子を観察できる。しかし、水中や砂泥に潜って生活することが多いため、観察することが困難である。そのため、情報不足(DD)にランクした。

 有鱗目について、ヘビ類のシロマダラは、前回調査とほぼ同数の個体を確認できたことから、前回同様の準絶滅危惧種(NT)にランクした。タカチホヘビは、生息していると考えられる山間部の湿潤な林床・渓流周辺を中心に調査したが、わずかな個体しか確認できなったことから、絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクを上げた。ヤモリ類のタワヤモリは、県東部の沿岸部や島嶼部で少数の個体を確認した。隣接する広島県・愛媛県に比べると、弱小な生息状況であるため、絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクを上げた。

【山口県における生息を脅かす要因】

 科学技術の進歩により、我々人間は便利で快適な生活を享受している。しかし、その半面、両生類・は虫類は人間の生活の影響を受け、年々生息地や生息数を減らしている。今回調査の結果は、それらを物語っている。

 両生類・は虫類は、どうして人間の生活の影響を受けやすいのであろうか。以下の①②の2点より考察する。まず、①人間の生活圏周辺に多くの種類が生息しているからである。種類により生息環境に違いがあるが、人家や住宅の庭にはトカゲやカナヘビが歩行し、水田ではカエルが鳴き、畦にはヘビが匍匐している。水田に水を供給する川にはイモリが泳ぎ、溜池にはカメが暮らしている。

 しかし、近年の人家や住宅環境の変化、水質の悪化、外来種の放逐、水田や畦・畑の減少、農薬の使用、圃場整備、河川改修や護岸工事、溜池の減少により、生息環境が激変している。また視野を広げると、人類が大量排出する二酸化炭素がもたらす温暖化やそれに関連して発生する豪雨などの異常気象も、人間の生活圏から遠く離れた場所に生息している種類も含めて、多大な影響を与えているだろう。

 次に②ほ乳類や鳥類と比べ、運動能力や移動能力が劣っている点が上げられる。両生類・は虫類は運動器官である手足が短い(または無い)ため、地面を這ったり、跳んだりして移動する。また、危険を察知し次の行動を起こすまで時間を要する。さらに、障害物を乗り越えることが苦手である。

 これらの能力の特性に起因する車両による轢死や水域の寸断による個体の活動範囲の制限は、個体群構成に影響を及ぼすであろう。また、人が造ったもの、例えば人工護岸・U字側溝が生息地に敷設された場合、それらが大きな障害となり個体が乗り越えられない、または落ちた際に這い上がれないといった状況を生じさせている。

~種類ごとに特化した要因~

○ サンショウウオ、イモリ[両生類 有尾目]

森林伐採、山道や堰堤の設置による水域の寸断、水質の悪化、異常気象による洪水や温暖化による林床の乾燥化

○ カエル[両生類 無尾目]

水田や湿地の減少、農薬の使用、圃場整備、水質の悪化、用水路のコンクリート化、森林伐採、堰堤の設置による水域の寸断、河川改修による浮き石の減少、車両による轢死

○ カメ、スッポン[は虫類 カメ目]

水田や畑・溜池の減少、農薬の使用、水質の悪化、車両による轢死、河川改修による浮き石の減少や三面張り、護岸工事、外来種(ミシシッピアカミミガメ)との競合

○ ヤモリ、トカゲ、カナヘビ[は虫類 有鱗目]

外来種(ニホンヤモリ)との競合、住みかとなる石垣の減少、住宅地における草地や樹木の減少

○ ヘビ[は虫類 有鱗目]

水田や湿地の減少・圃場整備によるカエル等の餌の減少、餌の有害物質の蓄積、里山環境の変化、森林伐採、車両による轢死

【山口県外来種リスト(平成30年3月作成)にリストアップされた種類】

 県内の外来種の侵入状況を明らかにするためのこのリストに、両生類では特定外来生物に指定されているウシガエルがリストアップされた。本種は県内の平野部を中心に広く生息が確認され、定着している。大型のカエルで移動能力があり、昆虫から小型ほ乳類まで口に入るものは何でも食べる。シーズンには数千から数万の卵を産み、繁殖能力にも優れている。そのため、生態系への影響が懸念される。

 は虫類では、クサガメと生態系被害防止外来種リスト掲載種のミシシッピアカミミガメとグリーンイグアナ、特定外来生物に指定されているカミツキガメをリストアップした。クサガメは18世紀末に朝鮮半島や中国から移入されたと考えられている。県内では平野部を中心に広く生息が確認され、定着している。在来種のニホンイシガメと生息域が重なるため、 競合や交雑が懸念されている。また、ミシシッピアカミミガメもクサガメ同様に生息が確認され、定着している。ミシシッピアカミミガメは、大型で動きが俊敏で産卵数も多いため、クサガメよりさらに競合性が高いと考えられる。他の2種はペットとしての需要が高いことから、全国的に飼育個体の逸走や放逐等による定着事例が増加しているが、今のところ県内では数例の記録があるだけで、定着は確認されていない。

両生・は虫類部会では、基礎的なデータを得るための現地調査において、多くの県民の皆様にお世話になりました。

また、以下の方々に適切な情報を提供していただきました。ご芳名を記載し、感謝の意を表します。相本篤志、畑間俊弘、松向寺智哉、並川愛知、新村義昭、田中 浩、徳永浩之、辻 雄介、山岡郁雄(敬称略 ABC順)本当に、ありがとうございました。

【執筆者:徳本 正】