はじめに

 この地球上には3,000万種とも推定される多くの生物種が存在し、それらの生物は生態系という一つの系として相互に深く関わりあい、つながりあって生きています。生物多様性は、人間を含む生命の長い歴史の中で育まれたかけがえのないものです。

  現在、日本で確認されている生物種の数は9万種以上、まだ知られていないものも含めると30万種を超えると推定されています。日本列島は亜寒帯から亜熱帯まで南北に延びる長い弧状列島で、面積の割には変化に富む気候や地形を持つという特徴から、生物多様性が高く、アジアにおける生物多様性ホットスポットの1つとして世界的にも保全上重要な地域として認識されています。日本では、古来より、人と自然が一体となった自然観を有し、自然を尊敬し、自然と共生する暮らしの中で地域毎に多様な文化を形成してきました。

 しかしながら、地球環境の変化により、世界の各地で生態系の攪乱や種の絶滅など生物多様性に対して深刻な影響が生じていることが危惧されており、日本においても、現在では多くの野生生物が生存を脅かされ、これまでにないスピードで多くの種が絶滅しつつあるのが現状です。

 国においては、平成4年に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」を制定し、平成7年から3次にわたる「生物多様性国家戦略」の策定や平成20年に制定された「生物多様性基本法」に基づく「生物多様性国家戦略2012-2020」の策定など、多様な野生生物種が生息し続け、自然生態系を健全に保持するための取組が推進されてきました。

 山口県は、豊かな自然環境に恵まれており、県内最高峰を誇る寂地山や日本最大のカルスト台地である秋吉台、穏やかな多島海美の瀬戸内海と荒々しい浸食海岸美の日本海など、特徴のある自然がいたるところに見られ、それぞれの地域に多様な生態系を育んでいます。しかし、本県においても近年では地球温暖化による気候変動や外来種の侵入等、自然環境を取り巻く状況が急速に変化し、生態系への影響や野生動植物の個体数の減少等が懸念されています。

 これまでに、県では環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱として、平成10年から3次にわたり「山口県環境基本計画」を策定し、平成13年及び14年には、県民総ぐるみで種の保全を行うための基礎資料として「レッドデータブックやまぐち」を発刊しました。また、平成25年には生物多様性基本法に基づく「生物多様性やまぐち戦略」を策定し、多様な生態系の保全や希少野生動植物の保護などの生物多様性保全の取組を推進してきたところです。

 このような中、「レッドデータブックやまぐち」の発刊から10年以上が経過し、県内の野生動植物を取り巻く環境が大きく変化してきたことを受け、平成27年度から改訂に着手し、山口県希少野生動植物保護対策検討委員会の下に設置された各生物群の専門家による8つの調査検討専門部会を中心として、現地調査・文献調査を重ね、新たな知見を集積してまいりました。平成30年3月には「山口県レッドリスト2018」を先行して公開し、このたび、県内の希少な野生動植物の生息・生育状況やその存続を脅かしている原因等を解説した「レッドデータブックやまぐち2019」を、新たにとりまとめました。

 この「レッドデータブックやまぐち2019」が、今後、幅広い県民や事業者、関係団体等への普及が図られることで、生物多様性保全への理解を深め、その重要性に真摯に向き合う契機となることを期待します。また、環境アセスメントや学校、地域等での自然環境学習等の様々な自然保護施策の基礎資料として大いに活用され、本県における県民一丸となった生物多様性保全の取組がより一層推進されることを祈念いたします。

平成31年3月

山口県希少野生動植物保護対策検討委員会
会長 松村 澄子