山口県のコケ植物の概要

コケ植物は、山間部に限らず人家周辺でも多くの種を確認することができる。これまで、「山口県のコケとシダ」(1982年)、「山口県産蘚苔類チェックリスト」(2004年)、「山口県蘚苔類チェックリスト2015」(2015年)と詳細な調査研究により県内のコケ相が明らかとなっている。それらの報告により確認された種は、苔類205種、蘚類467種、ツノゴケ類7種の計679種であるが、近年の形態学と並行してDNA解析等による分類群の再検討がなされ、新種や日本新産種が発表されており、今後県内でも多くの新たな種が確認できることが予想される。

 県内でこれほど多くの種が確認されているのには、諸先生方の詳細な調査研究によるところが大きいが、本県の地理的位置や地質(石灰岩地、堆積岩帯、火成岩帯)、県内各地に点在する鉱山や湿地という特有の諸条件により特徴的なコケ植物が、広域分布種(ウマスギゴケ、スナゴケ、ハリガネゴケ、ギンゴケ、ゼニゴケ、ジャゴケなど)に加えて確認できるためではないかと思われる。

 上記の特徴により確認できるコケ植物としては、日本海側ではハイヒバゴケ、瀬戸内海の離島などの果樹園ではセンボンゴケが確認できる。また美祢市を中心に点在する大小様々な石灰岩地形(カルスト台地や鍾乳洞など)で、サンカクキヌシッポゴケ、イボエチャボシノブゴケ、キャラハゴケモドキ、セイナンヒラゴケ、キブリナギゴケ、東部地域の火成岩帯ではエビゴケ、鉱山特に銅山跡地では、イワマセンボンゴケ、ホンモンジゴケ、火成岩帯の湿地では、オオミズゴケがそれぞれ確認できる。

 しかし、近年の豪雨等の自然災害や開発、管理放棄及び盗掘による人的被害により前回の調査に比較して全県的にコケ植物が減少傾向にある。そのような状況の中で、今回絶滅・消滅が危惧される種として選定した種とその状況について述べる。

 今回の調査で減少傾向の種としては、蘚類でオオミズゴケを中心とするミズゴケ科、ナミシッポゴケ、タチチョウチンゴケ、キブリハネゴケ、カトウゴケ、苔類ではイチョウウキゴケ、タカサゴソコマメゴケ、カビゴケ、消滅した種としては、シモフリゴケ、ツブツブヘチマゴケであった。一方、前回確認できなかったが、今回再確認できた種としては、蘚類でエゾチョウチンゴケ、タチチョウチンゴケ、コキジノオゴケ、キャラハゴケモドキ、カトウゴケ、苔類ではタカサゴソコマメゴケであった。今後消滅の可能性が高い種としては、蘚類ではクマノチョウジゴケ、ヤマトハクチョウゴケ、苔類ではタカサゴソコマメゴケの3種である。また、新たな絶滅危惧種としてキダチクジャクゴケを確認できたが、量的には非常に少なく生育地が開発地域でもあり今後消滅する可能性が高い。今回の調査で確認できなかったジョウレンホウオウゴケ、ツブツブヘチマゴケは、今後の調査研究で再確認することが考えられる。

 以上のような県内のコケ植物の状況であるが、今回の調査で選定しなかった種についても消滅及び減少が危惧される種が多数あるため、今後も継続的な調査研究が必要である。また、近年再検討されたホウオウゴケ科、タチヒダゴケ科については、県立博物館等に収められている標本をもとに再検する必要もある。

 今回、絶滅危惧種選定及び種の同定・確認に御指導、御助言いただいた岡山理科大学 西村直樹教授、国立科学博物館 樋口正信教授、服部植物研究所島田分室 鈴木直博士、服部植物研究所 井上侑哉研究員(以上蘚類)、千葉県立中央博物館 古木達郎博士、三重県在住 山田耕作博士(以上苔類)の諸先生方、また県内各地の調査地について貴重な情報等をいただいた秋丸浩毅氏、山根文人氏に感謝する次第である。

【執筆者:林 正典】